肯定的アプローチは「頑張れる力」を引き出すアプローチです。

良い変化を効率よく起こすカウンセリングとは、患者さんが求めているものを効率良く短時間で提供できるカウンセリングだと私は思います。ほとんどの患者さんは現在の状態をどうにかしたいと思い面接に来られますから、求めているものは、「現在の状態をどうにかする力」です。その力を効率よく引き出すことが、役に立ち満足いただけるサービスであり、良い変化を効率良く起こすカウンセリングだと考えます。ですから、カウンセリングではその力を引き出すのみで良いと思っています。
「現在の状態をどうにかする力」は「ちょっとだけでも今の状態をどうにかするために頑張ってみようかな」と思える力であり、「頑張れる力」です。そして、その力があればクライエントさんは現在と未来のために行動してくれます。

その「頑張れる力」を効率よく引き出すためには、まず患者さんに現在の自分を「よし」と思ってもらう必要があります。なぜなら、現在の自分を「よし」と思えていないと「未来に希望」が持てません。「未来に希望」が無いと「頑張れる力」は生まれないからです。現在の自分を「ダメ」と思っていると「自分はダメな人間だ。今だって最悪なのに、これから先、何かが出来る訳がない。辛いだけなのに生きていてもしょうがない。」となり「頑張れる力」は出てきません。今の自分を少しでも「よし」とできれば、「今の自分も何とか少しはやれている、だから、これからも何とかやっていけるかも知れない。」と少し良い未来を想像でき、「頑張れる力」が少しずつ出てくるのです。ですから、カウンセリングでは、まず今の自分を「よし」と思えるように援助することが大切です。
肯定的アプローチは患者さん自身のすべてを肯定し、今の自分を「よし」と思えるようになってもらうアプローチです。

Counseling room Co.koro 濱田 恭子

肯定的アプローチの会話の紹介

■肯定的アプローチの会話例

肯定的アプローチの最初の課題は、まず患者さんが今の自分を肯定できるようになることです。
治療者はそのサポートをします。具体的には治療者が先に患者さんを肯定し、患者さんの自己肯定感を上げていくのです。 まず患者さんの一言一言を患者さんが受け入れられる言葉で肯定するコミュニケーションを繰り返し続けます。 実際の会話の例で説明します。

-ある内科の診察室での事例-

糖尿病と高脂血症で指導入院後も、食事のコントロールができず、落ち込んだ状態で、インシュリンを受け取るために診察に来ました。揚げ物と甘い缶コーヒーが大好きな45歳の独身男性で、長距離トラック運転手。データ結果は以前より悪い状態でした。

■肯定的アプローチではない会話

患者さん:『コンビニの唐揚げ弁当もやめて、蕎麦にしたし、ドライブインでも豚カツ定食を我慢して、ざる蕎麦にしているのに、いろいろ我慢してるのに、どうして結果が悪いんですか? なんでダメなのかなあ? もう、どうしたらいいのかわかりません。もう、うんざりです。』

治療者:『なぜでしょうね? まだ缶コーヒー飲んでますか?』

患者さん:『前は10本飲んでたけど、今は食事の後と間に5本だけですよ』(怒)

治療者:『えー! まだやめてないんですか。まだ一日に5本も飲んでるの! 缶コーヒーはやめないとダメですよ!』

患者さん:『・・・・・・』(落胆)

治療者:『揚げ物も本当に食べてませんか?』

患者さん:『夜、どうしても我慢出来ないとき、ちょっとだけ。』(落ち込む)

治療者:『やっぱり! 油を減らさないと、体重は減りませんよ。それから、缶コーヒーは絶対にやめて下さい!』

患者さん:『・・・・・・』(落胆)

この会話で、治療者に患者さんを落胆させようという意図はありません。「早く良い状態になってほしい」という思いがあるので、正しい情報を伝えているのですが、患者さんは落胆してしまいます。ここでの正しい情報は「今のままではダメ」というメッセージになります。治療者には頑張っているように見えなくても、患者さんなりには頑張っているので、「今のままではダメ」というメッセージを伝えてしまうと、自棄を起こし、今できていることもできなくなります。人が落ち込んだ状態で「なんで自分はダメなのか?」と問うときは、「もう八方手を尽くしてやってみた。もうできない。もう疲れた。もう頑張れない」という意味の場合が多く、「未来への希望」がまったく無い状態なのです。

次に、同じ状況で、肯定する会話を紹介します。患者さんの一言一言を、患者さんが受け入れられる言葉で肯定することを繰り返す会話です。

■肯定的アプローチの会話

患者さん:『コンビニの唐揚げ弁当もやめて、蕎麦にしたし、ドライブインでも豚カツ定食を我慢して、ざる蕎麦にしているのに、いろいろ我慢してるのに、どうして結果が悪いんですか? なんでダメなのかなあ? もう、どうしたらいいのかわかりません。もう、うんざりです。』

治療者:『まだ結果が出てないのは残念ですが、揚げ物がすごく好きなのに、よ く蕎麦に変えられましたね。偉いですよ。蕎麦は血糖値が上がり難いからとてもいいですね。よく頑張ってますね。豚カツは大好物でしょ。よく我慢しましたね。まだ結果には出ていませんが、頑張っておられるので、大変だけど続けていくと必ずいい結果が出ますよ。』

患者さん:『そうですか(ホッとした表情)ありがとうございます。缶コーヒーも、前は一日に10本飲んでたけど、今は食事の後と間に5本だけですよ! 我慢してます(嬉しそうに)。』

治療者:『へエー! 偉いですね。1ヵ月で5本も減らせたなんてスゴイですよ。よく頑張ってますね(笑)。』

患者さん:『(嬉しそうに)ありがとうございます。……でも、もう少し減らしたほうがいいですよね(落ち込む)。……揚げ物も我慢してるんですが、夜どうしても我慢できないとき、ちょっとだけ食べてしまうんです(落ち込む)。』

治療者:『働いていたらストレスも溜まるでしょう。そんななかで好きな物を我慢するのは大変なことです。本当に頑張っておられますね。ちょっとだけ食べてしまったことを反省されたり、缶コーヒーをもっと減らそうと考えられたり、いつも忘れず「我慢しなきゃ」って思ってらっしゃることが偉いです。頑張ってますね。応援していますよ。』

患者さん:『ありがとうございます(嬉しそうに)。なんとかまた頑張ってみます!』

このようなコミュニケーションを続けると、患者さんは「今の自分も、少しはできているのかも知れない。だから、もう少し頑張ったら、少しはましな状態になるかもしれない」と、少し「未来への希望」を持てる状態になります。また、今出来ていることを治療者に認めてもらえたことで少しの「喜びや嬉しさ」も感じることができ、治療者を「信頼できる存在」として認めることも出来始めるでしょう。そしてこのコミュニケーションを続けていくと、患者さんは自分自身を少しずつ肯定できるようになり、精神的にも少しずつ安定してきます。そして「頑張る力」を身につけていくのです。

Counseling room Co.koro 濱田 恭子

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